初めての一人暮らし

新社会人になったとき、逃げるように浅草の小さな6畳間に引っ越した

 

 

これから暮らしていく中で、私にかかる生活費をもう払わせたくなかった

 

一刻も早く家を出たくて

 

内見もせず、浅草駅から20分歩く、小さな鉄筋コンクリート造の

日の当たらない一部屋を、その日に借りた

 

大きなコールマンのリュックサックひとつ持って

初めて自分の家の鍵を受け取って、部屋に入ると

 

居心地の悪い小さな暗い部屋は、妙に落ち着いた

 

 

入院中の祖母に会いに行って

「引っ越すことが決まったよ。浅草。一人で頑張ってみる」

と告げると、祖母はにっこり笑って

 

ぎゅっと細い両手で手を握ってくれた

「あなたは、強いよ。ちゃんと自立していて行動にできて偉いね」

って言ってくれた

 

 

初めて恋の話もした

「あのね、彼氏ができたよ。優しくて楽しい人だよ」

 

また、ギュッて手に力をこめて

「安心できる人ができたんだね。あなたの浮いた話は聞いたことがなかったから

安心したよ、嬉しいよ」

 

って

 

今でもずっと心に残っているよ

私は一人でも頑張るよ

 

 

ザラザラした床と、二層式洗濯機置き場

冷たいコンクリートの冷え切った壁

思わず、内見すりゃ良かったって思うような

澱んだ空気の部屋だった

 

 

ギーっと音のなるバストイレ

料理なんてできやしない小さなシンクと一口コンロ

 

一人ぼっちになった気分だったけど、なぜか居心地が良かった

 

急いで買った冷蔵庫には白だしとケチャップ、マヨネーズしかなかった